痴漢や盗撮、強制わいせつなどの性暴力や性犯罪加害者に対して、どのような認知行動療法プログラムを行っているのか
『窃視症(のぞき)』『盗撮(撮影罪:<性的姿態等撮影罪>)』『露出』『痴漢』『強制わいせつ(不同意わいせつ罪)』『強姦(不同意性交等罪)』『下着窃盗』『児童ポルノ』『小児性愛』『家庭内(兄妹間など)でのわいせつ行為』、児童虐待、その他、性暴力者や性犯罪加害者にどのような認知行動療法プログラムを行っているのか。
当ルームで行っているプログラムは、個別指導(個別相談)のため、平均的知能をお持ちの子供から大人そして、神経発達症(発達障害)や境界知能、軽度の知的発達症(知的障害)の子供から大人の方を対象にしています。
当然、個々によって知的レベルや理解度が違うために、それぞれに合わせて学習課題や説明方法などに違いはございます。
プロクラムは単一の認知行動療法ではなく、いくつかの学習課題を組み合わせて行っていく認知行動療法プログラムです。
例えば、子供や軽度の知的発達症の方の場合、性教育、認知の歪みや思考と行動の修正、リラプスプリベイション(再犯防止)、被害者の気持ちなどの理解などを行っていくプログラムとなっています。
いくつかの学習課題とは、『性教育』、『人間関係の理解』、『認知の歪みの修正』、その他の課題のことを言います。
そして、それぞれの課題を修正するための方法(技法)をパッケージ化して行っているのが、性暴力・性加害者の再犯防止のための認知行動療法プログラムです。
刑事施設などで行われている『性犯罪再犯防止プログラム』なども同じで、保護観察所のコア・プログラムでは、回数は5回(5日間)と少ないですが『性犯罪のプロセス』『性加害につながる認知(認知の歪み)』『コーピング(自己管理と対人関係スキル)』『被害者の実情を理解する(被害者への共感)』『二度と性加害をしないために(再発防止計画)』をパッケージ化して行われております。
当ルームが行っている認知行動療法プログラムで取り入れている課題
以下の課題を相談に来られたすべての人が行うわけではございません。
個々の状態や理解度、犯罪を行っていた期間や常習性、性依存の状態、刑事施設などで『性犯罪再犯防止プログラム』を受けた人、罰金刑などで刑事施設に入らなくてよかった人そして、子供や軽度の知的発達症など、違いを考慮して個人に合わせたプログラムは作られます。
例えば、痴漢や盗撮(撮影罪:<性的姿態等撮影罪>)を行った者と強姦(不同意性交等罪)を行った者では、プログラムの課題や相談回数などが大きく違ってきます。
では、それぞれの課題をごく簡単に説明してみます。
性の正しい知識を学ぶ (子供や軽度の知的発達症の方にはしっかりとやります)
男女の身体の性的な仕組みと生理学、思春期の変化、プライベートゾーンや行っていいマスターベーション、性感染症、性的関係のルール、違法な性行動、健全な男女関係の特徴の教育などの学習を行います。
コミュニケーションスキルを学ぶ
人間関係の持ち方、会話の方法、基礎的な社会スキルからより高度な社会スキルの学習、自分の気持ちを把握して表現する方法、私的な場所と公的な場所の違いによる振る舞い方の違い、相手の気持ちの理解と理解する方法などについて学びます。
被害者の気持ちを理解する(プログラムの後半)
被害体験のトラウマがその後の人生に及ぼす影響の理解、性的虐待行為が犠牲者や家族に及ぼす有害な結果の理解、性的被害者に対して適切に共感を表現する能力などについて学んだりしていきます。
認知の歪みを修正する(最重要課題)
一番の問題である認知の歪みや問題となっている考え方の癖、以下の図の認知モデルのスキーマ、自分のいいように解釈する癖などに対して、行動技法と認知技法を用いて修正を行ってまいります。
犯罪者の認知や行動の癖は、本人に都合よくできているために考え方が固まっている(スキーマ)のも事実です。なのでこのセッションは何回にも分けてまた繰り返し行います。
リラプスプリベイション(認知の歪みの修正同様に、とても重要なのでしっかりとトレーニング)
『再犯防止』という意味です。
1、再び犯罪を犯さないために危険な状況を知る。
2、危険な状況になってしまった時の対処方法を学び使えるようになる。
例えば、とても簡単に記すと
①危険な状況を知る。危険な状況とは、痴漢を行っている人にとっては、『朝の満員の通勤電車』/盗撮を行う人は『エスカレーター』など、その他にもありますが、どのような状況が犯罪を行う危険があるかを知る。
②それらに対しての対処方法を考え実行する。
③対処方法が使えない、危険な状況になってしまった時の対処方法も考えておいて使えるようにする。
アクセプタンス &コミットメント・セラピー(ACT<アクトと言います>)
マインドフルネス(※)の考え方をベースに、『心理的柔軟性』を生み出すことで「心の健康」を維持・回復させる方法です。それ以外にも、ストレスへの対処方法として、リラクゼーションの方法などを学んでいただきます。
※マインドフルネスとは、簡単に書くと『今という瞬間や体験に注意を向けて、それをありのままに受け入れること』
グッドライブズモデル
トニー・ウォード氏らが提唱した犯罪処遇モデルのことを言います。
人は何らかの「よさ」(primary human goods)を得ようとするが、犯罪行為は不適切な方法でそれを得ようとした結果である考える。また、よいところや得意なことを見つけそれを伸ばしていこうという考え方である。
ポジティブな人生目標とその達成に関する教育などを行ってまいります。
境界知能の方(IQ70~85未満)および、境界知能と軽度の知的発達症の間の方(IQ70前後)が対象
ご希望者には、上記のプログラムの課題に『コグトレ※1』を加えた90分間のプログラムも行っております。
認知の歪みや間違った知識などの修正に加えて、感情のコントロールやことの善し悪しの判断などができるように、脳の認知機能強化も同時に行うプログラムです。
子供から大人までを対象にしておりますが、特に子供には性暴力や性虐待又は窃盗などのコントロールだけでなく、学校での学習面や社会面、運動面の基礎的能力の強化としても必要になります。
※性暴力・性加害者の再犯防止のための認知行動療法プログラムは基本は毎回50分間のプログラムです。
※1コグトレ(Neuro-Cognitive Enhancement Training:N-COGET)とは、脳の認知機能強化を目的としたトレーニングのことをいいます。
コグトレについては、以下のページをご参照ください。
コグトレ(脳の認知機能強化トレーニング)
詳しい内容やご相談については以下のページをご覧ください。
子供から大人の性犯罪加害者や性暴力の再犯防止のための認知行動療法とカウンセリングページへ
カウンセリング・ルーム・トップページ
ブログ
『境界知能の子供達に『コグトレ』と『前頭葉・実行機能プログラム』を行っていて変化の現状』
『性の問題行動や性加害者に対する認知行動療法を行っていて』
『性加害者で小児性愛と思って認知行動療法を受けに来られた方々』
今年前半6カ月の振り返り
『心理師・千田の思考:今年前半6カ月の振り返り、相談ではうつ病、ASDと夫婦関係、境界知能、性犯罪加害者そしてセックスレス・性生活』
参考文献
1、高橋三郎・大野裕監訳『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院 2014/6/30
2、SPLRITS:リカバリーのための性犯罪治療マニュアル 著者・安藤久美子、中澤佳奈子、佐藤道子 星和書店 2024/5/15
3、SPLRITSワークブック 著者・安藤久美子、中澤佳奈子、佐藤道子 星和書店 2024/5/15
4、よくわかるACT 著者・ラス・ハリス 監訳者・武藤崇 星和書店 2012/9/15
5、リラプス・プリベンション-依存症の新しい治療 著者・G.アラン・マーラット、デニス・M・ドノバン 翻訳者・原田隆之 日本評論社 2011/8/4
6、グッドライフ・モデル: 性犯罪からの立ち直りとより良い人生のためのワークブック 著者・パメラ・M・イエイツ 、デビッド・S・プレスコット 翻訳者・藤岡 淳子 誠信書房 2013/12/5