大人の神経発達症(発達障害・ASDとADHD):夫婦・カップル関係問題の相談例(性生活も含む)


神経発達症の問題で相談に来られていたご夫婦の相談例


1、夫婦関係問題から「夫がASDではないか」と訴える妻とその夫に行った夫婦の認知行動療法(ACATも用いた)
ACATとは、「ASDに気づいてケアするプログラム(Aware and Care for my Autistic Traits:ACAT)」というASDに特化した認知行動療法

2、うつ病(二次障害)で相談に来られた方で、夫婦関係と性生活にも問題があった夫がASDの夫婦

2、は現在作成中です。

掲載にあたって本人に了解を得ている事例であることと、個人を特定できないように配慮いたしております。
また、相談終了後2年以上経過した方で掲載許可のいただけた方を、皆様が相談に行く参考になるように載せまいります。

★ASDとは、自閉スペクトラム症のことをいいます。
★ADHDとは、注意欠如・多動症のことをいいます。



1、夫婦関係問題から「夫がASDではないか」と訴える妻とその夫に行った夫婦の認知行動療法(ACATも用いた)


夫・40代(再婚) 妻・30代(初婚) 長男・2歳
結婚・5年 付き合いった期間・2年


問題
1、会話がかみ合わず、夫婦関係がうまくいかない。
2、妻の気持ちがわからないために妻が不満を爆発させる。
3、喧嘩が絶えない。
4、妻の抑うつ状態と自己評価の低下
5、妻は離婚をしたいと、これまでに何度か言ってきている。


妻は夫が自閉スペクトラム症ではないかと考えて、夫婦カウンセリングを一緒に受けることを提案。夫が了承後当ルームに申し込まれる。(オンライン)

夫は再婚で、前妻とは4年間の結婚生活後に離婚をしている。
離婚の主な理由として、前妻によく言われていたことは、「私の気持ちがわかってくれない」や「会話がかみ合わない」「話しても聞いてくれない」大きくはこの3つである。


その1年後、会社の同僚に妻を紹介されるが、一度離婚をしているので、すぐには付き合いをはじめないで1年ほど友人関係が続く。
それから2年ほど付き合ってから結婚する。結婚するまでは同棲することはなかった。
この時のことを妻は、仕事ができる頭がいい人だなと思っていた。多少、話が合わなかなとは思っていたが、一緒になればお互いに理解できるのではないかと思っていた。


結婚と同時に一緒に暮らし始める。当初から話が合わずによくケンカをしていた。妻がよくいっていたことは「どうして私の気持ちがわからないの」「何であなたはそうなの(妻の話を聞いていないという意味)」また、妻が話しているのに聞かないで反射的に自分の話にすり替えてしまうことも多く、それ以外では、忘れ物や物をなくすことも日常茶飯事で妻からよく注意を受ける。



子供の頃は、クラスの人や友人には「空気が読めないよね」とよく言われていたが、本人は何を言っているかがよくわかっていなかったという。また、国語の成績がよくなく関連するのだが、映画を友人と見に行ってもストーリーが理解できなかったので行くのがだんだん嫌になっていった。
不注意や忘れ物、物をなくすことに関しても非常に多かった。そのことでよく母親に叱られていた。


夫婦でカウンセリングを以前に受けたことがある。
結婚して1年経った頃に、喧嘩がやはり絶えなかったので夫婦でカウンセリングを受ける。その時は、夫婦関係の話ばかりで自分自身(夫)のことについて話を聞いてもらえる雰囲気ではなかったので、途中からしんどくなってしまってやめてしまったことがある。



性格:
夫:こだわりが強い、自分中心に物事を考える、落ち着きがない、神経質な面もある
妻:大雑把なところがある、外交的で人付き合いは好きな方、物事についてあまり気にしない
既往歴(過去に大きな病気をした経験):夫婦共に、特になし
触覚・視覚:夫・触覚と視覚が過敏である
たばこ:夫婦共に、吸わない
お酒:夫婦共に、週に2日程度350mlのビール
趣味:
夫・自転車
妻・ピラティス
家族:
夫側:父・70代 母親・70代 弟・30代(結婚をしている)
妻側:父・70代 母親・60代 兄・40代(結婚をしている) 妹・30代(結婚をしている)


当ルームでの簡易検査結果
AQ(自閉症スペクトラム指数):39点(
カットオフ・33点)
AQ:自閉スペクトラム症のスクリーニングテストとして使用
カットオフ:この点数以上であればその可能性があります。という数字。

CAARS(コナーズ成人ADHD評価スケール<Conners' Adult ADHD Rating Scales>):ADHD混合型



初回時
上記に書いているような現在の困りごとや今までの経過、生育歴などのお話をしていただく。次に認知行動モデルの説明を行う。
下記のモデルは、ASDの方の個人の認知行動モデルですが、これに一般的な認知行動モデルを合わせて夫婦に対して夫のモデルと妻のモデルという形で説明を行った。




初回セッション後
1セッション以降(相談は1週間に1回から隔週、そして月に1回)
1セッションでは、スクリーニングテストとしてAQとCAARSを行い、テスト結果の解説をする。
2セッションでは、テストの結果踏まえて本人の特性を明らかにしていく。

また、この時にASDの特性(夫)とASDでない人の特性(妻)の違いやADHDの特性(夫)について説明を行う。の理解がとても大切である。

今後は、それぞれの特性の違いを理解した上で、お互いの強みと弱みやコミュニケーションの方法、お互いの理解の仕方など学習していく。

お互いの特性を理解する。



夫婦に対して、以下の項目についてもプリント資料(ACATの資料を使用)を用いて説明を行い、ASDの特性(夫)とASDでない人の特性(妻)について理解をしてもらいました。

項目ごとASDの特性とASDでない人の特性について理解
『コミュニケーションの特性の違い』/『切り替えについての特性の違い』/『興味の持ち方の特性の違い』/『感覚の捉え方についての特性の違い』/『ものの捉え方(まとめて考えること)についての特性の違い』/『計画や段取りをすることについての特性の違い』/『はっきりしないことへの推測についての特性の違い』/『行動や気持ちのコントロールについての特性の違い』


AS/ASDの人は、すべてが共通しているかというとそうでもなかったり、AS/ASDでない人も人によって様々です。
例えば、ある人は『感覚の捉え方についての特性の違い』については、それほどAS/ASDの特性を持っていなかったりする場合があったりします。人によって様々な違いがあるので一つ一つ検討をしていきます。人それぞれに性格が違うのと同じようなことです。


AS/ASD:ASとは自閉スペクトラムというタイプのことをいいます。困ったり、問題が生じていない場合に使用します。ASDは自閉スペクトラム症ことをいい、ASの後のD(disorder)は障害と訳され、悩んだり問題を抱えている場合に使用します。


ASDの特性については、先ほどのAS/ASDの人(夫)とAS/ASDでない人(妻)のそれぞれの特性を踏まえて、お互いに自分ができることと相手にカバーやサポートをしてほしいことなどを毎回調整を行った。

相談中の一つの例
夫が妻の気持ちを理解できないことに対して、妻に気持ちを具体的な言葉に置き換えて説明をしてもらう。すると、夫は理解を示しそういうことだったんだと言い、悪かったねと話したことで、はじめて理解してもらった気がすると話す妻。
この後、普段の生活でも、ちょっとパターンが今までと違うからスムーズにいかないかもしれないが、妻が理解してほしいことがあれば具体的に話してみることをホームワークとする。


ADHDの特徴の一つとして、話が取っ散らかることと計画することが苦手。については、実行機能強化を目的として課題を夫に行ってもらった。

上記の課題以外にも、メリット・ディメリットやコラム方という方法、聴くトレーニング、ミィーティング時間、その他の認知行動療法技法を用いて行ってまいりました。


相談時間:50分間
相談回数:17回
頻  度:初回セッションと第1回~第3回目までは週1回、それ以降は隔週1回、第11回~第17回目は月に1回
期  間:約12カ月



あとがき
掲載が可能かを伺うために連絡をさせていただきました。
終了して3年が経つが「多少食い違うことはあるが
以前のような喧嘩になることはない」ということと、長女が誕生したというお目出たい話も聞くことが出来ました。

初回時は、奥さんはカサンドラ症候群(診断名ではない)のような状態であったであろうと考えます。
特にAS/ASDのパートナーとの関係でこじれてしまうと、カサンドラ症候群のような状態になりやすいので、夫(妻)、彼(彼女)は、どうもAS/ASDの傾向がありそうで二人の関係に疲れてきていると思ったら、早い段階で相談に行かれるのがいいと思います。
でないと、疲弊してしまいます。



中学生~大人の自閉スペクトラム症(ASD)の認知行動療法
-認知行動療法によるセルフケア(マネジメント)の方法を学ぶ-

中学生~大人の注意欠如・多動症(ADHD)の認知行動療法とコーチング
-日常生活における実行機能のセルフケア(マネジメント)の方法を学ぶ-



参考文献:
ASDに気づいてケアするCBT ACAT実践ガイド
著者:大島郁葉・桑原斉
金剛出版 2020/10/10

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